味のれん ぱりぽり通信
田んぼの土の健康診断
見えないチカラを見える化する
JAえちご中越の土壌分析
無事にお米の収穫が終わり、田んぼは春まで一休み。でも、次の年も稲がすくすく育つためには、言うまでもなく、土のチカラがとても重要です。秋から冬にかけて、JAえちご中越では、稲刈りを終えた田んぼの「土壌分析」を行い、土の状態を調べて次年度の土づくりの有効な対策をアドバイスする取り組みを行っています。新潟味のれん本舗が参画しているN.CYCLEプロジェクトの未利用資源を活用した肥料、「もみ殻くん炭ペレット」をまいた田んぼも今年から土壌分析が始まるとのこと。JAえちご中越の土壌分析現場を訪問しました。
稲刈りのあとの田んぼの土は、どんな状態なのでしょうか?「翌年の稲を育てるには養分が足りない状態です」と答えてくれたのは、JAえちご中越の山本雄一郎さん。では、春までの間にどうやって回復させるのでしょう。「一つは、春に肥料を入れること。もう一つは、刈り入れ後の田んぼを秋のうちにトラクターで耕して、稲わらを漉き込む秋耕(しゅうこう)という作業を行うといいんです」。未利用部分である稲わらやもみ殻などの有機物は、耕しながら田んぼに混ぜ込み、微生物の力で土に還すのですが、秋の時点で鶏糞などの有機肥料と一緒にしっかり土に漉き込んでおくと、分解が進んで熟成し、いい状態の土になります。一方、春に混ぜ込むと分解するには時間がたりず、気温が上がってからワキと呼ばれるガスが発生しやすくなり、このガスの影響で稲の初期成育が悪くなるリスクがあるそう。スタートダッシュにつまずいてしまわないためにも秋耕は大切なのですね。 手間もトラクターの燃料費もかかるので、どの農家でもできることではないのですが、JAえちご中越の管内では3〜4割ほどの農家が取り組んでいるのだそうです。
土のチカラを回復させるためには、秋耕の他、適切な肥料・土壌改良資材の投入が必要なのですが、昨今は資材の値段も上がっており、米農家にとっては頭の痛いところだそう。そんな農家の助けとなるのが「土壌分析」。これによって、田んぼごとの土のチカラを見える化でき、使わなくていい資材と、入れた方がいい資材がわかるそう。どんな取り組みなのか詳しくお聞きしてみましょう。
「農家さんに土を提出してもらって土の成分を分析し、『水稲土壌診断処方せん』を作成してお一人お一人に通知しています」と山本さん。処方せんを見せていただくと、土壌のpH、石灰、加里(カリウム)、ケイ酸、リン酸などおよそ9項目の分析結果が[適正・不足・過剰]で診断されています。これはまさに土の健康診断! さらに推奨散布資材も書かれているので、どんな肥料・土壌改良資材を使えば改善できるのかが一目でわかります。「例えば、リン酸が過剰なら、リン酸を含まない資材を勧めますし、ケイ酸が不足していることがわかれば、秋のすき込みの際に、ケイ酸を補給できる資材を入れるなど農家さんが対策しやすくなります」と山本さん。例えば、N.CYCLEプロジェクトのもみ殻くん炭ペレットも、まさに秋耕時にまくことで、不足しがちなケイ酸を補給するのに役立つ資材のひとつなのだそうです。
「土壌の分析結果を受け取った農家さんからは、不足している部分にはどの資材を入れようかなど、前向きな相談をいただきます。生産者にわかりやすい処方せんを出すことで、土壌の改良に取り組みやすくなるお手伝いができていると思います」と話してくださったのはJAえちご中越の大塚康生さん。評判は上々のようです。
JAえちご中越の建物内にある分析センターでの作業を見せていただきました。土壌分析は、平成8年から継続して行っているそうですが、今年度からは長岡技術科学大学と連携した土壌調査を行うことになり、採取数を拡大。行う土壌分析は、なんと1000カ所分に! まず1枚の田んぼから等間隔に5カ所、150gほどの土を採取。これを乾燥させ、砕いて、ふるいにかけて根っこや藁を除きつつ、細かくします。このふるいにかける作業だけでも大変な労力がかかるそう。見学したこの日は指標の一つ、CEC(土の中に肥料をどれだけ維持できるかという指標)の分析作業中。一日にできる分析はおよそ100〜150カ所分。これを10〜13項目分、分析していくため、大変時間がかかり、全部終わるのは5月の見通しだそうです。加えて、結果をもとにした処方せんの作成も行うとのことで、おいしいお米のため、農家さんのための地道で丁寧な作業に頭が下がる思いです。
このように「土の健康度」を見える化した土壌データは、今後、N.CYCLEプロジェクトのもみ殻くん炭ペレットやバイオ堆肥の効果を測る指標に使われていきます。「ちょうど、もみ殻くん炭ペレットをまいた田んぼの初年度の分析結果が出てきたところです。ペレットをまいた田んぼは、今後、ケイ酸の数値が上がっていくイメージがありますし、CECの数値もよくなっていくのではと期待があります」と山本さん。来年以降、どのような数値が出てくるか、楽しみだというお話をしてくださいました。
今回は特別にJAえちご中越のにしやま籾殻炭化施設も見学させてもらいました。カントリーエレベーター(※)に隣接しているこの施設では、平成12年から精米後のもみ殻を炭化しています。もともと、もみ殻を炭にして土に戻すことは古来から「焼肥(やきごえ)」として全国的に使用されていた方法です。野焼きが禁止されている現在でも、稲わらやもみ殻の焼却は例外とされていますが、くん炭中は、火災の危険に注意しなければならないうえ、煙もかなり出るため、周辺地域に配慮して実施できない農家も多いそうです。にしやま籾殻炭化施設は、くん炭作りにまつわる諸問題をクリア。1日にできるもみ殻くん炭は約1t。そのままなら処分に困る大量のもみ殻を、良質な資材にしています。
※大型の乾燥機と貯蔵サイロを持つ米の倉庫。もみ殻付のまま貯蔵された米は、この施設内でもみ殻を取り、出荷される。
炭化したもみ殻は、ケイ酸が含まれ、多孔質になるため、微生物の働きも促しやすく、土へのメリットがいっぱい。春の育苗用の土に重宝される他、N.CYCLEのもみ殻くん炭ペレットの資材にもなっています。需要が多くて供給が追い付かないほどだそうです。
米作りの過程で出てくる、稲わらも、もみ殻も、田んぼに漉き込んだり、くん炭化したり、一つ一つの作業によって、次の年の良質な米作りにつなげていくことができるんですね。土から生まれたものを土に還す循環型農業の理想的なモデルを、JAえちご中越の取り組みに見ることができました。