醸造のまち摂田屋

まちに降り積もった雪が少しずつ姿を消し、雪国・越後長岡に本格的な春の到来が待ち望まれる季節です。
JR長岡駅から南に1駅、宮内駅から徒歩10分ほどの摂田屋は、味噌・醤油蔵と酒蔵が集まる「醸造のまち」。 まるでタイムスリップしたかのような、古の情緒あふれる界隈を早春の風が駆け抜け、麹や酒の芳香が道行く人々の鼻をくすぐります。
かつて宮内駅の場所に神社があり、参詣する人や旅人を接待する場所=接待屋(せったいや)と名付けられたのだとか。 長岡城と城下町が生まれた江戸時代、東京・上野の寛永寺に寄贈されて天領(幕府の直轄領)となり、御領地として醸造業が発達。雪の恵みで良質な水が豊富だったこともあって栄えました。醸造6社すべてが文化財の指定を受ける建築物を所有し、蔵や街並みを眺めながらそぞろ歩くだけで心が弾みます。

レンガ造りの煙突がまちのシンボルにもなっている醤油醸造の老舗・越のむらさきは、長岡藩時代の天保2年創業。だし醤油が一般的でなかった昭和44年ごろ、先駆けて作った「特選かつおだし 越のむらさき」が看板商品となり、現在の社名にもなりました。
旧三国街道へ入り、石畳の道を進むと、そこは天文17年創業の新潟県最古の清酒の蔵元・吉乃川。信濃川の伏流水と東山連峰の雪どけ水が混じり合う地下水で醸した「吉乃川」は、全国にファンを獲得しています。
さらに歩を進めると、星野本店の前に鎮座する大きな杉の樽が目に留まります。弘化3年の創業当初は醤油を専門に、自家製が一般的だった味噌の醸造は昭和になってから。麹は30年ものロングセラーです。
杜氏、蔵人とともに母と娘たちが伝統を守りつつ、新しいプロジェクトにも挑戦する長谷川酒造は天保13年創業。看板ブランド「越後雪紅梅」の名付け親は、先代の社長と懇意だった作曲家・遠藤実さんだそう。
明治30年代に星野本店から分家した味噌星六は、化学農薬不使用の国産大豆と有機栽培米、伝統塩を使った昔ながらの手づくり味噌が評判の蔵元です。
明治20年創業の機那サフラン酒本舗は、かつて一世を風靡した薬酒の蔵元。美しい土蔵と新たなスポット「米蔵」を目指して人が訪れます。
その近隣には、弊本舗のパッケージを手掛ける創作木版画家、たかだみつみさんのアトリエも。
発酵し、ひそやかに息づく摂田屋。有機的な気配を感じる界隈に、まもなく人の賑わいが生まれます。

  • 越のむらさき

  • 星野本店

  • 長谷川酒造

  • 機那サフラン酒本舗